認知症の種類や症状などについてのまとめです。

認知症の種類

認知症を引き起こす主な病気認知症とはどんな病気?

認知症を引き起こす病気にはさまざまな種類があり、大きくは次の3つに分けられます。

1. 神経細胞が変性、脱落*して起こる認知症(変性性認知症)
2. 脳血管障害が原因で起こる認知症(血管性認知症)
3. 脳腫瘍、感染症、その他身体疾患が原因で起こる認知症(二次性認知症)

交通事故などによる頭部外傷や脳挫傷が原因で認知症が引き起こされることがありますが、これらは二次性認知症に分類されます。
変性性認知症であるアルツハイマー病は認知症の代表的な疾患で、全体の約50%を占め、次いで脳血管性認知症が約30%、変性性認知症のレビー小体病が10%と、この3疾患が認知症全体の9割を占めています。
【認知症の原因となる病気の割合】

出典:須貝佑一ほか:あなたの家族が病気になったときに読む本 認知症.講談社,2006

脳の神経細胞が変性・脱落して起こる認知症

脳の神経細胞が変性・脱落して起こる認知症には、アルツハイマー病、レビー小体病、前頭側頭型認知症などがあります。

アルツハイマー病

アルツハイマー病は、神経細胞の脱落によって脳が広範囲に萎縮することと、糸くず状の異常な蓄積物がみられること(神経原線維変化)、および異常なたんぱくが沈着したシミ(老人斑)がみられることを特徴とした変性性認知症です。アルツハイマー病はゆっくりと進行するためにいつ頃から発症したのかわからないことが少なくありません。しかし、病気は確実に進行していき、後期になると認知機能の高度な低下と人格崩壊がみられ、身体機能も衰えて最終的には寝たきり状態になります。現段階ではアルツハイマー病を治すことができませんが、治療によってその進行を遅らせることは可能です。

レビー小体病 : レビー小体型認知症

レビー小体病は認知機能の障害などを示す進行性神経疾患で、典型的には日内に変動する認知機能、幻視、パーキンソン様症状を3症状とし、脳の神経細胞の中に、ある種のたんぱく質が固まって「レビー小体」ができることが、この病気の原因です。レビー小体は、パーキンソン病の原因にもなっていますが、それが出現するのが記憶などに関係する部分だと、認知症になるのです。このレビー小体病による認知症をレビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies:略称DLB)といい、認知症のなかで数%から10数%を占めるとされています。

症状は、時間帯によって日によって、目立ったり目立たなかったりし良い日もあれば悪い日もあるといった変化もあります。記憶障害などの認知機能障害が1日のうちで変化しやすく、午前中は比較的正しい判断をするが、午後になると記憶があいまいになり混乱しやすくなります。また筋肉がこわばったり動作が遅くなったりするなど、パーキンソン病でよく見られる症状が現れることもあります。記憶障害や「いつ」「どこ」がわからなくなる見当識障害は、アルツハイマー病の場合ほど強くありません。多くの場合そうした中核症状よりも周辺症状の方が先に現れます。例えば具体的な内容の「幻視」がしばしば現れますし、「抑うつ」や「妄想」が現れることもあります。特徴的なことは・男性に多い・初期のころはもの忘れを自覚している・被害妄想やしっと妄想が起こりやすい・画像検査では認知症の割に脳の萎縮が軽いなどがあります。

幻視は「隣の部屋に人の姿が見える」「ベッドの上に猫が見える」、「壁の上に虫がいる」「ベッドの下に子供がいる」「柱の後ろからに人が覗いている」など、とくに人物がありありとみえる幻視が特徴的です。本人もおかしい不思議だと思うことがあります。妄想は:ありもしないことを現実のように思い込んでいる状態・・たとえば、現場をみたことはないが、毎晩知らない人が勝手に家に入りお金を盗む・・といいます。パーキンソン病のような症状では:手のふるえ、小幅歩行、身体が固いなどパーキンソン病に似た運動障害を認めます。レビー小体病はパーキンソン病との区別が難しい場合もありますが、パーキンソン病の場合はパーキンソン病の運動障害が進行してから認知機能低下が認められますが、レビー小体病の場合は運動障害が軽いときに認知機能の低下を認めるという違いがあります。

3月20日の朝日新聞紙面に≪震災映像子供に負担≫という見出しの記事がありました。【子供がテレビから流れる大津波や原発事故の映像に長時間接することで、ストレスを訴える事例が出ている。専門家は「繰り返し災害の映像を見続けると、不安が募る。映像から離れ、『大丈夫だよ』と言葉に出して伝えてほしい」と呼びかけている。(佐々波幸子)】【地震、津波、原発事故の映像がずっと流れていると、知らず知らずのうちに不安やストレスをため込んでしまうのです】【繰り返し災害の映像を見続けると、フラッシュバックを強制的に起こすことになり、不安をあおる】と、書かれていました。レビー小体型認知症の幻覚妄想状態と子供のそれとが同じだとは考えませんが、しかし、幼い子供もお年寄りもストレスに弱い者であることは間違いないでしょう。そして、この説が例えばレビー小体型認知症の人にも考えられるとしたら、穏やかに居られるようにその人の心を脅かす刺激から遠ざけることが重要になります。

幻覚妄想状態にある高齢者は,幻覚や妄想を訴えてもそれを否定したり説得することは避けます。「猫なんかいませんよ・何を言っているのですか」「玄関に誰もいませんよ、思い違いですよ」など直接的な否定は避け、むしろ「そうですか.猫がいますか、私にはよく見えませんが」とか「玄関に出ていましたが、そのような人はいませんでした.もう帰られたんでしょうか」と婉曲に否定しながら,高齢者の不愉快や不安に共感して接することが望ましいでしょう。そしてできるだけ気分を変えるような関わりをしましょう。刺激になるものから遠ざける・話題を変える・身体を動かす・散歩に出る・マッサージをするなど、様々なそして身近にあるもので、集中していたものから気持ち(意識)を他に移せるような関わりをしてみてください。きっと穏やかな笑顔が戻ってきます。           

出典:三宅貴夫著  認知症辞典 
参照・引用:2011.3.20朝日新聞 生活紙面 参照・引用


前頭側頭型認知症(ピック病)

前頭葉と側頭葉だけが萎縮して起こる認知症で、ピック病とも呼ばれています。病気の原因はわかっていません。他の認知症と異なって、発症初期では記憶障害やその他の認知機能の障害がきわめて軽く、人格障害が前面に出て人が変わったように奇妙な行動を繰り返すのが特徴です。十数年以上の長い経過で寝たきりに移行します。

脳血管障害が原因で起こる認知症

脳出血や脳梗塞などの脳血管障害によって、大脳の認知機能に重要な役割を果たす部分の神経細胞が障害されると認知症を引き起こします。初期症状として、記憶障害のほかに、頭痛、頭が重い、めまいなどの多彩な自覚症状が現れるため比較的発症時期が明確であることが特徴です。また、脳の障害部位がもともともっている機能に応じた症状が現れるために、記憶力が低下している一方で思考・判断力はしっかりしているといった「まだら痴呆」と呼ばれる現象がみられることがあります。

脳腫瘍、感染症、その他身体疾患が原因で起こる認知症

脳腫瘍、脳の感染症、頭部外傷や脳挫傷、あるいは身体疾患が原因で認知症が引き起こされることがあります。アルツハイマー病などの変性性認知症と異なり、これらの認知症では、その原因疾患を治療することで認知症が改善されることもあります。例えば、甲状腺機能低下症、多発性硬化症、正常圧水頭症、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫などによって引き起こされる認知症は、原因疾患を適切に治療すれば回復が可能です。
*用語の解説
神経細胞の脱落:神経細胞の死滅により数が減っていくこと。
幻視体験:視覚に関する幻覚で、外界に実在しないのに物体や動物、人の顔や姿などが存在すると認識すること。レビー小体病でみられる幻視体験は等身大の人物群が現れるなど非常にリアルであるという特徴があります。


認知症の中核症状

認知症の症状には様々なものがありますが、アルツハイマー型認知症を例にして説明すると、大きく分けて①中核症状②周辺症状があります。では、中核症状・周辺症状とは一体どんな症状なのでしょう。

認知症の症状

記銘力障害・記憶力障害

新しいことを覚えたり(記銘力)しっかり記憶しておいたり(記憶力)することができなくなる。特徴として、古い記憶ではなく新しい記憶がなくなる。たとえば、食事をした直後に食事をしたことを忘れてしまうなど。

見当識障害

今が(いつ)で、ここが(どこ)なのか、自分や周囲にいる人が(だれ)なのかが解らなくなる。

計算力障害

おつりの計算ができなくなったり、支払う金額を間違えたりする。足し算、引き算の簡単な計算ができなくなる。

感情障害

興奮しやすい一方で、うつになりやすくなる。感情が不安定になる。

思考力障害

判断力、注意力が低下し、筋道を立てて物事を考えることができなくなる。

異常行動

症状が重度になると、周囲が全く理解できない無意味な行動をとるようになる。

中核症状

認知機能の障害で1)記憶障害 2)失語・失認・失行 3)見当識障害 4)実行機能障害といわれるものがあります。

まず、認知とは何でしょう?

認知とは、外界にある対象を知覚した時、それが何なのかを判断したり解釈することをいいます。対象を知覚して、それが何であるかを、経験や知識・記憶に基づいた思考・考察・推理などの助けを得て解釈・知る・理解する・または知識を得ることができるのです。また認知距離という、人間が空間や人などを認知し、自分自身を中心にして認知している空間や事象の地理的、心理的な距離感覚をもつという働きもあります。認知が障害されることが失認であり、見えたり聞こえたりしてもそれが何であるか理解できないことになります。見たものが認知できない視覚失認のほか、相貌失認・手指失認など様々な症状があります。

この認知の障害によって現れてくるのが、記憶障害・失語・失行・実行機能障害といわれるものなのです。

①記憶障害

 いわゆるもの忘れとして知られている症状です。認知症では初期から見られる症状で、もの忘れのしかたが特徴的といわれています。人は大なり小なり年をとると記憶障害がおこってきます。加齢(年を重ねること)と共に「人や物の名前がすぐに出てこない」「忘れてしまったことは自覚しているが、思い出すのに時間がかかる」というもの忘れの自覚症状がでてきます。

 認知症のもの忘れは加齢によるもの忘れとどう違うのでしょうか?認知症の記憶障害は症状として病気の初期に気づかれます。加齢によるものと異なるのは進行するというのが特徴です。物や人の名前、物を置いた場所やしまった所など、生活の場面の中でもの忘れが起こってきます。そして、このもの忘れがもとでトラブルが発生して周りの人が気づくということになります。職場の人、友人など家族以外の人がもの忘れに気づいたり、本人が「もの忘れがする」と自覚することも初期の段階では多いといわれています。

 記憶障害の中には、新しい事柄を「覚えられない」という記銘力の障害が含まれます。先ほど会ったばかりの人の名前や少し前の出来事を記憶することができないという症状です。また、箸を使って食事をする・自転車に乗るなど、長年繰り返して行い獲得した行動は「手続き記憶」として記憶の引き出しに保っていることができるが、物の名前や生年月日などの言葉の意味を忘れてしまう(語義失語)が認知症には特徴的に見られます。

 これらのことを含めて、記憶障害といいます。

②失語

 失語というのは、読む・話すなど言葉を使った行動に関する障害のことをいいます。言葉(単語)を聴いても意味が理解できない、話をしようとしても上手く言葉が選べない・言葉が出てこない、言いたい内容を表現できないなどの症状として現れます。失語の症状が進むと、思いを伝えられず、表現できなくなり少しずつ語彙が貧困になります。さらに進行すると具体的な単語が出てこないので「あれ」「それ」などの代名詞が多くなります。また、「○○を持ってきて」と指示されても○○が何だか解らず、まったく違うものを持ってくるなどの症状が見られるようになります。

②失認

 失認とは見る・聞くなど、視覚や聴覚で知覚(感じた)しているものの意味するところを正しく認識できないということをいいます。見たり聞いたりして十分に感覚の刺激として知覚しても、それが何なのか、あるいは何の音なのか理解できない状態になります。知っているはずの人を判別できなくなる(相貌失認・人物誤認)、通い慣れた道なのに家に帰る道順が解らなくなる、家の中でトイレの位置が解らなくなるなど、部屋の位置関係や道順の空間の配置が解らなくなる(空間失認)などがあります。

③失行

 失行は、運動するための機能には問題がないにもかかわらず、物事を目的に合わせてできなくなる障害のことをいいます。衣服の着脱ができなくなる(ボタンがかけられない・ズボンを頭に被ってしまう)などの:着衣失行や、食事の時に箸やスプーンを使って食事ができなくなる失行など、さまざまな行動障害が見られます。

④見当識障害

 記憶障害や失認のために、時間や空間、人、場所などの「見当」がつかなくなることを見当識障害といいます。人はいつも「今日は何月何日」「今は一日のいつ頃か」「自分が今居る場所はどこで、何をするところか」などについて、意識すれば答えること(見当がつく)ができます。しかし、認知症ではこの見当が曖昧になって、日にちが解らない・季節が解らない・今自分が居る場所側からない・家までの帰り道が解らない、今自分がどのような状況にあるのかが解らないなどの症状が見られます。これは記憶障害と同じに認知症の初期から見られるといわれています。

⑤実行機能(遂行機能)障害

 見当識障害と同じく、記憶障害や失認・失行などから派生して実行機能障害がおこります。実行機能障害というのは、物事を目的に合わせて適切にやり遂げることができなくなる状態のことをいいます。外出のために衣服を整え、持ち物を準備する。買い物に行って必要な物を買ってくる。家事や仕事を段取りに従ってこなす。留守番をして伝言を家族に伝える。料理をしていて途中で手順がこなせなくなり、まったく違ったものが出来てしまうなど、順を追ってこなす作業が途中で切れてしまい、遂行できなくなる状態になります。

認知症の周辺症状

認知症の周辺症状とは、先に述べた中核症状を核にして引き起こされてくる症状のことをいいます。といっても認知症の人に必ず現れるというわけではありません。中核症状のみが現れる人もあります。
周辺症状には、抑うつ状態・妄想・幻覚・不眠などの精神症状と、徘徊・同じこと(話・質問、行動)の繰りかえし・介護への抵抗・暴言・暴力など行動に現れるものなど、大きく2つに分けることができます。
最近では認知症の周辺症状について『認知症の行動心理学的症候《以下、行動心理症状という》【Behavioral and Psychological Symptoms Dementia:BPSD】』という言葉が使われるようになりました。この、認知症の行動心理症状(BPSD)というのは、認知症の人に見られる知覚・思考内容・気分または行動の障害による症状というふうに説明されています。

「精神症状」①うつ状態

うつ状態というのは、気分が晴れずに悲観的になったり落ち込んだりしている状態のことをいいます。動きが少なく活気がありません。意欲が低下して今まで楽しんできた趣味や娯楽に興味がなくなってしまいます。やる気が起こらず他に関心が持てないので、身だしなみや身の回りのこと、テレビや新聞からの情報や周囲あるいは社会のことに興味が向きません。テレビや新聞を見たり、人と交流することに気持ちが向かないので、会話が少なくなり孤立してしまいます。認知症の初期症状としてうつ状態が現れやすいといわれています。

「精神症状」②妄想

妄想というのは、物事を解釈したり理解することに関して、周りの人などから解釈などが事実とは違っていると指摘されても訂正できない、考え・感じ方・とらえ方の確信のことをいいます。解りにくいかも知れませんが、例えば自分でどこかに置き、どこに置いたのか忘れてしまった財布や貯金通帳などが解らないときに『財布や通帳がなくなった・誰かに盗られた・泥棒に盗られてしまった・嫁が盗ってしまった・・・・』といいだし、周囲が盗られたのではないことを説得しても納得せず受け入れることができない状態をいいます。こういう状態を『もの盗られ妄想』といいます。
認知症の人は記憶障害が原因で大切なものを仕舞った場所や約束などを忘れても、もの忘れの自覚がないので『誰かが盗った』という思考の異常に発展するのです。身近な介護者や家族(特に介護をしている嫁など)が妄想の対象になることが多いようです。もの盗られ妄想の他に「ご飯を食べていない」「ご飯を食べさせてくれない」「いじめられる」「家から追い出されてどこかにやられる」などの被害妄想や、「夫(妻)が浮気をしている」「自分の留守にどこかの女(男)を家に入れて隠している」などの嫉妬妄想の訴えが見られることがあります。

「精神症状」③幻覚

実際には知覚しないものを感じることを幻覚といいます。聞こえるはずのない音や声が聞こえる(幻聴)、実際には存在しないものが見える(幻視)、などの症状があります。認知症の人は幻覚があるときには、人や物が見える、何か物音がするなどと訴えます。「お客さんが来たから応対に出なければならない」「押し入れに誰かいて話をしている」「縁の下に子供がいて走り回っている」などの発言でこの症状に気づきます。

「精神症状」④睡眠障害

認知症の人に夜間の睡眠障害がしばしば認められ、周辺症状の中では最も多いといわれています。本人が「眠れない」と訴えることもありますが、夜中に起き出してごそごそ動き回る、家の電気を全部点けて回る、夜中にトイレに何度も起きるなどの状態が見られ、家族が気づくことがあります。実際には夜間は眠っていても、熟睡感がない場合には不眠を訴えることになります。このようなときには、昼間(日中)活動が低下していないか、昼寝の時間が長すぎないか、昼寝の時間帯はいつ頃か、日中ウトウトして過ごしていないかを、観察する必要があります。

「精神症状」⑤その他

不安・焦燥感《記憶障害や見当識障害などによって、覚えのないことや訳が解らない状態にありますから自分の居場所や状況が解らないで不安になることがあります。はっきりとしない不安感に常に取り巻かれているので、イライラしたり落ち着かなかったりします。この不安などが強くなって焦燥感になり、興奮したりします》せん妄《意識障害の一つで、身体の調子や環境の変化などによってせん妄を起こす可能性はあります。睡眠に纏わるものとして現れる(夜間せん妄)、手術後に現れる(術後せん妄)があります。その他に、薬物が引き金になって出現するものもあり、認知症の人が何らかの治療薬(向精神薬・ドーパミン性剤・その他)を飲んでいることによってせん妄を起こすことがあります》

「行動面の症状」①徘徊

徘徊は認知症の進行に従って出現する症状です。あてもなく部屋や廊下などをうろうろと歩き回る、同じ所をぐるぐる歩き続ける、屋外をあてもなく歩くなどがあります。特に屋外の場合には、長時間歩き続けて帰り道が解らなくなるということも起こってきます。そのほかに、家にいても「実家に帰らせていただきます」といって外に出る行動から徘徊につながることもあり、認知症の本人には何らかの理由があって歩いているともいわれています。しかし、判断力や空間認知が低下しているので、長時間の徘徊によって体力の消耗や、思わぬ事故の危険性があります。

「行動面の症状」②繰り返す言動

タンスの中身を出したりしまったりを繰り返す。ドアや扉の開け閉めを繰り返す。同じ事(時間・場所・確認)を何度も繰り返し質問するなど。暴言・暴力・拒否(介護抵抗・大声・はらいのける)、異食(食べ物以外のものを食べようとする)、不潔行為(糞食・弄便行為など)がみられます。
これらの症状は記憶障害や判断の障害、見当識障害などによって現れます。

「周辺症状」①妄想

高齢者の妄想は脳の障害に伴い出現する妄想や、環境因による妄想が多く、その内容は統合失調症にみられるように対象が漠然とした不安に満ちたものとは異なり、現実的で断片的な内容のものが多い。妄想は喪失感と攻撃性の2軸によって生まれると分析した精神科医もいる。

症状

(物盗られ妄想)しまっておいたお金を嫁が盗んだと言ってきかない。(罪業妄想)自分なんかいない方がいい、最低の人間だと思ううつ状態。(被害妄想)みんなが私の悪口を言っている。(関係妄想)(自分に関連した)噂話をしている。(心気妄想)自分は大変な病気にかかっている。(コタール症候群)自分の内臓が溶けてなくなってしまった。(血統妄想、誇大妄想)自分の子孫は皇族。(幻覚)誰かが家にいる、子供がたくさんいる、などの「幻の同居人」幻覚。

原因

認知症の初期には身近な人間に対して疑い深くなることがある。認知症特有の「物事を正しく判断する能力の欠如」により本人の欲求が満たされないことから短絡的に身近な人を攻撃することで解決しようとするのだ。猜疑心や妄想は認知症の人の衰退していく様々な能力に対する自己防衛的感情である。物忘れや判断力の障害により、さまざまな失敗が日常で展開され、周囲に注意されたり非難されたりすることに対する防衛であり、また嫉妬妄想は大切な人から見捨てられるのではないかと言った不安を表現したものといえる。
対応:疑り深い人なら特別な対応は必要ないが、以前よりも猜疑心が強くなり根拠のない理解に苦しむ訴えが続き訂正不可能な場合は訂正や説得は無駄である。脳に何らかの障害があることが多いから専門医に健康診断の名目で受診させアドバイスを仰ぐことも重要である。

家族、介護者としては
1.まずは十分に傾聴し、本人の訴えを理解する。
2.妄想の多くは被害的な内容でそれが介護者に向けられたものであるとつい否定し、訂正しようとむきになるが、まずは本人に共感。興奮が見えたら話題を変えたり「ちょっとトイレに行ってきますね」と一時的に席をはずすと落ち着く事もある。
妄想においては薬物療法に比較的反応し、よい効果が得られる場合もある。(向精神薬のブチロフェノン系薬物等)
物盗られ妄想にはリスバダールやセロクエルと言う統合失調症に使われる薬を少量使うことで介護負担が減少する事もある。妄想のきっかけになる周囲の言動や態度にも注意を払う。
昼夜逆転:睡眠覚醒のリズムが狂いそれらがせん妄や昼夜逆転へと発展し行動障害を伴うこととなる。
夕暮れ症候群:午後から日没頃になると徘徊や興奮、攻撃叫び声、介護抵抗など不穏な行動、とんとん叩くシーツをつかむ、体をひっかくなど奇妙な行動がみられる。施設入所した利用者の帰宅願望が強く毎日夕方になると暴力暴言が見られるようになる。それを止めると徘徊を始め最後に椅子でバリケードを作り誰も近づかないようにした(88歳男性、アルツハイマー型認知症の診断)夕暮れ症候群は大体夕食が終わる頃に落ち着いてくることが多いがなかには夜間の不眠、夜間せん妄に繋がるケースも多い

「周辺症状」②睡眠障害

認知症高齢者の30%に見られる。
脳梗塞や脳出血などの脳循環障害においてはその20~50%の高い頻度で睡眠障害を合併する。
認知症の進行に伴い睡眠覚醒リズムが狂い日中の居眠り、夜間の覚醒が頻繁に見られるようになる。

原因

睡眠覚醒のリズムは自立神経系、内分泌系、循環器系などの生体リズムの障害と併存している。
また脳内の特定部分(視交叉核上)の調節機能が障害されると昼夜逆転が生じるとも言われる。
生活リズムを乱す原因として一番多いのは日常生活の心の問題である。
例えば配偶者や友人との死別、定年退職に伴う社会的地位の喪失などの喪失体験、体力の低下や病気に対する不安などがリズムを乱す。これらが原因でうつ病や神経症に発展すると、睡眠障害や日常の活動性低下が著明となり、日中と夜間の活動性が逆転する。身体的な病気も生活のリズムを乱す。
呼吸器疾患、心疾患、胃腸疾患などの症状で見られる「呼吸困難、咳、痰、胸痛、胸やけ、腹痛
前立腺肥大や尿路感染症のような排尿障害、皮膚の掻痒感、などが睡眠を妨げ生活リズムを狂わせる。
薬剤としては「向精神薬、抗パーキンソン薬、気管支拡張剤、降圧剤、抗不整脈薬、などの心血管系剤、ステロイド剤、抗生剤、インターフェロンなどが生体のリズムを乱す薬剤としてあげられる。

対応

規則正しい生活、適度な運動、ストレスをためない生活環境、社会活動や趣味などで日常の活動性を高め、疲労物質を十分に脳内にためる。不眠の原因を探り取り除く。
専門医への相談は認知症高齢者の生活リズムの障害がせん妄によるものであれば、その原因を特定するために身体疾患や脳の機能障害を確認し、治療を施す。
また激しい行動障害に対しては、精神安定薬や睡眠導入剤などの向精神薬が効果を得ることが多い。
しかし例えば向精神薬の増量から過鎮静の状態となりますます昼夜逆転(日中の傾眠、夜間の不穏、不眠)が助長されては意味がない。興奮時にはまったく違う話題や働きかけを行い、本人の注意を他に向ける対応が望ましい。
精神科医に全面的に頼るのではなく精神科医との話し合いにより日常のケアプランを立てる。

「周辺症状」③せん妄

軽度の意識障害。意識の清明度の低下だけでなく興奮や幻覚などの多彩な症状を伴う。
1.注意の障害
2.認知障害(記憶・見当識・思考・知覚(幻視)の障害)
3.精神運動性障害
4.睡眠・覚醒周期の障害
5.感情の障害

症状

発症は急激で数時間から数日の経過。症状は日によって大きく異なり1日のうちでも変動する(興奮とぼんやりを繰り返す等)興奮の起こる数時間前から徐々に落ち着きをなくし、焦燥感や不安感が生じ注意散漫、同じ話を繰り返し、話のまとまりがなくなっている。
(夜間せん妄)夜中に起き出してゴミ箱に向かって話し出す、等のおかしな行動が見られる。見当識がなくなりおかしな事を話し出すが翌朝は覚えていない。

原因

脳器質性疾患では脳循環障害・認知症(血管性、アルツハイマー)・身体疾患では肺炎などの感染症・糖尿病などの代謝疾患・内分泌疾患(ホルモン異常)・血液疾患、ビタミン欠乏症、手術、アルコール、疾患の治療薬(総合感冒薬やうつ病の治療薬、抗パーキンソン薬、睡眠導入剤も原因になるときがある。

対応

身体的サイン(不安や心的ストレス)を見逃さず身体疾患の有無、或いは治療中であれば服用している薬の副作用も考慮する。
徘徊・多動・落ち着きのなさ:徘徊はアルツハイマー型認知症が多い。徘徊とは無目的に歩き回る行動であるが、実際は何らかの理由が存在することが多い。しかし本人がその目的を説明出来なかったり或いは歩き回っているうちに当初の目的を忘れてしまうために周囲には歩き回る目的が理解されない。見当識障害、記憶障害による徘徊:自分の住んでいる場所がわからなくなると自分の家であるにも係わらず自分の家を探したり、自分の家でもトイレがわからなくなり徘徊をしてしまう。

「周辺症状」④記憶障害・認知障害・感情障害

記憶障害

物を置いた場所を忘れ探して歩き回る。

認知障害

不安そうに徘徊を続ける

感情障害

不安や高揚感から理由もなく徘徊する

原因

見当識障害(場所・時間)
見当識障害は記憶と密接に関連している。自分が経験した事柄が正しく記憶されているからこそ「今がいつ」で「ここがどこ」で「どのような人物と会っている」のかわかる。

記憶障害

近時記憶を失うので置いたものをよく忘れる。探しているうちに何を探していたか忘れてしまい徘徊する。
認知障害(思考・判断力障害):周囲の状況が理解出来ずどのように行動してよいか判断がつかず歩き回る。また初めは目的があって行動を起こしたにも係わらず実行機能障害のために手順がわからず混乱し徘徊する。

感情障害(気分・情動の障害)

気分の高揚が徘徊となることもある。出来事や周囲の状況の変化が刺激となり気分が高揚する。
不安・緊張感:自分のしている事に失敗してもその理由がわからないと不安になる。また自分自身の状況について理解出来ないことも不安を強める。身体疾患が生じていて身体的不快感が持続すると不安になる。一人だと不安が強まるので一緒にいてくれる人を求めて徘徊する。

対応

トイレの場所をわかりやすく目立った目印をつける。(通路への矢印など)
見当識障害、記憶障害から現在の住まいを自分の住まいと認識することが出来ず徘徊している場合:「昔の家はもうない」などと説明しても納得しない。頭ごなしに否定すると感情的になり徘徊を助長したり別の行動症状を呈することもある。「帰る家に今日はご飯がないからまずこっちで食事を済ませよう」「電車がもうないから明日一緒に行こう」などと「帰りたい気持ち」を汲み取る。一旦家の外に出てぐるっと一回りすると気がすむこともある。
記憶障害から自分の持ち物を探して徘徊が生じている場合:探し物をしている本人の気持ちを否定しない。本人と一緒に探してみるのも手である。財布をよく失くすのなら財布は預かっておいて、本人の見つけやすい場所にさりげなく置いておき一緒に見つける。また探している時に「もう長く探したからちょっと一休みしましょう」「後で探すのを手伝うから」と一時中断するのもよい。
思考・判断力の障害、或いは実行機能障害などが徘徊の原因となっている場合:焦らなくて良いことを説明し、周囲が「一緒に協力して」行う態度が大切である。混乱が収まると再び自分から行動を再開することも多い。失敗することがわかっても無理やり止めさせないでさりげなく助けする。
何らかの刺激によって気分が高揚している場合:それ以上の環境の変化を避け、本人が安心を得られるような環境で穏やかに接する必要がある。言葉によって説明するよりも本人を取り巻く状況を穏やかなものにして時間を待つことが大切である。不安に対しても同様な対応を心がける。拘束や施錠は不安感を煽り徘徊を強める。身体疾患に関してはしっかりと様子観察、必要があれば医師の診断を受ける。介護者が一緒に歩いて不安を軽減する。

「周辺症状」⑤食行動の異常(過食・異食)

多食:1度に大量の食べ物を食べる。
頻食:絶えず食べている、食べようとする。
過食:多食と頻食を一括して行う。
盗食:他人の食べ物を盗んで食べる。
異食:食品でないものを口にする。
不食:少量しか口にしない。或いは食べたり食べなかったりする。
拒食:食べまいとする。

症状

例えばアルツハイマーの初期;記憶力や判断力の低下に伴う炊事行為の異常や味覚や嗅覚の変化による好みの変化、食べた事を忘れ何度も食事しようとする行動や逆に拒食が見られる。
中期;食欲が亢進し過食が見られる。盗食が見られる。摂食行動もマナーが悪くなり周囲を汚し、また手掴みで食べこともある。徘徊で体力を使い本当に空腹の時もある。さらに進むと食べ物の認知が障害され食物でないものを口にしたりする異食が見られたり食事をまったく拒否することもある。

原因

食事により血液中のぶどう糖濃度が増えると、それが脳の視床下部にある満腹中枢を刺激し、満腹感をもたらし食べることを止める。このように摂食に関する生理的制御作用が脳にあるが、アルツハイマー型認知症などの認知症に冒されるとこの機能が障害され満腹感がなくなり過食が起こる。過食はアルツハイマー型認知症より脳血管障害型認知症の方が多い。
エピソード記憶の障害から食べたことを忘れる。

対応

家庭での対応としてはおかずは大皿で盛る。(他人のおかずに手をつけない)。会話を増やし食事を楽しむ。
食事が終わった後の対応で食事が終わったのにまた食事を要求した場合「はいわかりました」と返事をし様子を見る。たまにお茶とお菓子を少量皿に盛り「食事までこれを食べていて下さい」と差し出す。
デイサービスや施設で盗食がある場合は食事中は職員が傍にいて話しかけたり一緒に食事をとるようにする。
頻食には要求があれば出来るだけ話をそらし、要求が始まれば少し傍を離れ遠くから様子を観察する。
異食にはアルツハイマー重度に異食、前頭側頭型認知症(ピック病含む)は側頭葉の障害から口唇傾向(何でも口に入れる)が見られる。食欲低下・身体疾患の有無を確かめる。うつなどの心理環境的要因も考えられるので家族や介護者の共感、抗うつ剤の活用

「周辺症状」⑥不潔行為

弄便

便を弄ぶ

原因

便失禁に困って持ち歩く。認知力の低下により水洗トイレの使い方がわからず水で流せないので処理に困り持ち帰る。

対応

便失禁をなくす。人の排便習慣やトイレでの後始末に配慮することで弄便を防げることが出来る場合がある。
トイレの使い方をわかりやすくするために工夫する。(水洗レバーを目立たせる等)

放尿

トイレの場所がわからずウロウロ探している間に、間に合わずトイレでない場所で放尿してしまう。他の場所と勘違いをしてトイレと思い込み放尿してしまう。

原因

場所についての見当識障害。夜間せん妄に伴う見当識障害)

対応

在宅から施設に移り住んできた高齢者などはなかなかトイレの場所を覚えられずそれが失禁や放尿につながることから、トイレ誘導、およびトイレの目印を明確にするなどの対応が必要。また夜間寝室にポータブルトイレを置き廊下の照明を明るくする対応が必要だが出来るだけ本人の排便排尿の行動をアセスメントし、行動パターンを明確にする必要もある。

抑うつ

高齢者の精神症状でもっとも多い訴えがうつ気分である。軽度のアルツハイマー型認知症にうつ症状の頻度が多い。うつ気分の大きな原因に脳の機能障害がある。例えば高血圧や脳血管障害などの脳循環障害においては、抑うつ気分の併発する頻度が60%以上との報告もある。うつ気分や活動性の低下がアルツハイマー認知症の初期症状として出現することも多く、本人がそれを自覚し不安や焦りから余計にうつ気分や気力低下が強まる傾向がある。

症状

うつの4大症状:抑うつ気分・意欲の低下(抑制状態)・不安・焦燥・自律神経症状(l不眠)
趣味の手芸や庭の手入れを日課のように行っていたのにも係わらず、それらに興味を示さない、部屋に閉じこもる、或いは食事の支度や家事などに手をつけない、特別な理由がなく、なすべきことをしない、あるいは出来なくなった状態で、活動性の低下が見られる。またうつ気分は「体調が悪い」と訴え、いつも考え込み、浮かない表情をして気分も晴れず悲哀感や自責感を訴え、なにもせず気分が沈んでしまう状態。

原因

加齢に伴う身体的、心理的、或いは社会的側面のさまざまな能力の衰えがストレスとなり、それが長期化し、また繰り返されることが考えられる。例えば持病が長引き、日常の生活機能が低下するとあらゆる精神機能も弱くなり、気分が落ち込み、何をするにも自信が持てず厭世的になり閉じこもる。また心理社会的要因として、配偶者や友人との死別、生きがいや社会的役割の喪失、社会的孤立感の増大などのさまざまな喪失感がうつ気分の発症に繋がる。

対応

エピソード記憶の障害のために自分が述べた事を忘れてしまい、周囲から非難されたり自責の念にかられ自信を失くしたりすることがきっかけで閉じこもり、活動性が低下し、憂鬱な気分のきっかけとなることがある。介護者の激励や叱責は逆効果で、かえってうつ病を悪化させ、最悪の場合は自殺に追いやることもある。それゆえ、家族は本人の状況を病気として理解し、共感することが重要であるがまず専門医を受診することが望ましい。

「周辺症状」⑦仮性作業(常同性強迫性)

一見、まとまりのない意味のない悪戯にも見える動作。認知症が重度化するほど動作は単純になる。

症状

物を入れたり出したり、一見、意味のないような動作を繰り返す。
前頭葉症状によって動作の繰り返しが起こることがあり、比較的重症化してから出現することが多い。自発性を維持し行動を起こすのが前頭葉の働きだが一度起こした行動を止めるのも前頭葉の働きである。

対応

無意味なことを繰り返しているという認識が本人にない為、注意しても効果がないばかりか、不当に非難されていると感じている。危険がなければ見守りして自由にさせる。或いは(危険な場合)他のことに注意を向けさせ繰り返し動作を止める方法もある。強迫性など不安感しゃ焦燥感、興奮等を伴っている場合は薬物療法(抗精神薬)も選択肢となる。

攻撃的行動(介護への抵抗)コミュニケーション障害

失敗を指摘され行動を注意制止したり型にはめようとして不満が爆発することが多い。
介護者への暴言、暴力・他害

環境的原因

やりたい事をケアが邪魔してしまう着衣や入浴介助、型にはめられるのが不満・嫌な事をわかってもらえない。介護してもらう動作内容が予測出来ず怖い。

身体的原因

痛いのだけれど訴えられない、便秘で不快感がある。感染症で具合が悪い・不眠・眠くて機嫌が悪い・精神症状。幻覚や妄想、うつ

対応

出来ないことや不得意なことに取り組ませ不快感や劣等感を感じさせないようにする。衝動的、行動的になる場合は、状況に共通点がないかまず考える。ささいな事がきっかけになっていることもある。きっかけもない状態で衝撃的攻撃的になる場合は性格の変化が考えられる。特定の人物に攻撃するのなら、その人との接点を減らすべきである。環境の変化がきっかけとなって改善する場合もあるので施設やデイサービスを利用するのも一つの方法である。拒否においては「何をされるかわからない」という恐怖感を持っている場合が多いので簡単な言葉でゆっくりと説明をしそれでも不安な様子であったら段階的に試みる、或いはタイミングをずらす等の工夫をしてみる。介護者、家族の負担が大きい場合は薬物療法(抗精神薬、抗うつ薬)が選択肢となる。
無気力無関心意欲低下:判断力の低下が無気力にしたり意欲の低下を引き起こすことが多い。認知症の進行と共に深刻になっていく。消極的な生活のまま放置するとその人の持っている能力も失われる。認知症軽度から中度の人に多く、気力が低下しやる気を失っている。悲観的な言動が多く出来ることさえ手をつけようとしない。

症状

判断力の低下、抑うつ状態
対応:失敗を責めない。出来るだけ本人が出来そうなことを見つけて導き、失敗を経験させないようにさりげなく助ける。簡単な家事などを家族や介護者が一緒に取り組む。気分の落ち込みが改善することなく数週間続くようなら薬物療法の適応が考えられる。


認知症の非薬物的療法について

認知症に対する非薬物的療法について、公益財団法人長寿科学振興財団の資料より引用。 

【回想法、リアリティオリエンテーション、音楽療法など】

認知症の症状と非薬物的療法についてご説明します
高齢化社会の進展に伴い、認知症高齢者の数は増加し、その治療やケアが重要な問題となっています。
認知症の中心的な症状は、「物忘れ」や「時間や今いる場所がわからない」などがあり、これらに、うつ状態、夜間せん妄、徘徊(はいかい)、尿・便失禁などの行動があります。
また介護者をなぐる、ける、かみつくなどの行動、同じ言葉を繰り返したり、同じような要求をする、大きな声を出したり、悪口雑言を言ったりする行動が含まれます。このような問題行動は、認知症を有するかたの80%で起きるとされています。

○介護の目標は生活の向上や尊厳のある生活

 問題行動は、認知症高齢者ではよくみられ、介護者にとっては非常に大きな負担となっています。過去には、このような問題行動に対しては、抗精神薬、身体拘束、または無視することで対応してきましたが、認知症高齢者にとって人道上からも好ましい対応ではありませんでした。
認知症高齢者を介護していく上での目標は、認知症高齢者の生活の快適さを向上させること、そして人間として尊厳のある生活を維持していくことが大切です。つまり、問題行動を抗精神薬で穏やかにコントロールされた状態ではなく、むしろ少々落着きがなく騒がしくとも家族や他人と会話したり、時に逸脱行動があっても表情ゆたかで元気な状態を求めることにあります。
このような中で現在非薬物療法は、認知症高齢者の問題行動の対処法として重要であると考えられています。

○非薬物的療法の種類

 認知症高齢者に対する非薬物的療法としては、
具体的には、回想法(リンク2参照)、リアリティオリエンテーション(リンク3参照)、音楽療法(リンク4参照)、理学療法(リンク5参照)(筋力強化、バランス訓練、関節可動域訓練)、作業療法(家事・家庭内役割作業、手工芸・工作)、レクレーション療法、園芸療法、演芸療法、社会心理療法、ダンス、散歩、各種体操(ラジオ体操、リズム体操、民謡体操、ストレッチ体操)などがあり、また環境の整備、介護者への教育・指導なども含まれます。

○非薬物療法の目的

 認知症に対する非薬物的療法の目的としては、
第1に生活の中で活動性を高め、規則正しい生活を行うことによって睡眠障害や問題行動を改善することです。
身体活動は精神活動に影響を与えると言われています。寝てばかりいては、精神機能の低下をきたし、認知症が進行することがありますが、適度の運動によりこの精神活動の低下を防ぐことも可能です。昼夜が逆転し、昼間寝てばかりいる認知症高齢者では、運動により昼間起きている時間が増え、それとともに不眠、夜間せん妄も減少していきます。
第2としては、さまざまな活動を通して、楽しい時間、感情体験をすることで、不安が軽減したり、イライラ感が減少したり、歩きまわる行動が減少したりします。
第3としては、さまざまな活動を通して、コミュニケーション能力を促進します。ゲームや作業、創作活動を通じてふだんの生活にはない感情の動き、心の動きを体験でき、自分自身の現在を表現し、他の人々とよく交流することができるようになります。
また認知症高齢者の精神機能を活発化させ、自発性、集中力や意欲面を向上させるのに効果があります。
第4としては、言葉によるコミュニケーションが障害されていることが多い認知症高齢者で、活動を通じた表現により、介護する側が直接にその人の心のありようを理解することができる場合があります。

回想法 【高齢者の記憶を引き出し、共感しながら心の安定をはかる】

思い出を蘇らせることで認知症の進行を遅らせたり精神的な安定をはかる療法です
回想法は、高齢者の思い出に対して専門家が共感的に受け入れる姿勢をもって意図的に働きかけることによって、高齢者に人生に対する再評価や自己の強化を促し、心理的な安定や記憶力の改善をはかる療法です。
認知症高齢者では、すぐ前のできごとを忘れてしまっていても過去のことを覚えています。そのような認知症高齢者の記憶を引き出し、共感しながら高齢者の心の安定をはかりながら、懐かしい・楽しいといった思い出を蘇らせることで、精神的に心地よい環境を作り出し、認知症の進行を遅らせようとしたり、精神的な安定をはかる療法です。

○個人回想法とグループ回想法

 回想法はカウンセラーと認知症高齢者の1対1で行う個人回想法と、6人から8人くらいのグループで行うグループ回想法に大きく分けられます。
個人回想法は、1対1で行い、構造化された面接として行う方法と、構造化されない自由な枠組みで行う方法があります。
構造化された面接として行う際は、決められた曜日・時間に、場所を設定して行い、通常のカウンセリングに準じ、1週間に1回、50分くらいの面接を行います。
構造化されない方法では、日常生活におけるさまざまな機会をとらえて、さりげなく高齢者の思い出にふれながら、コミュニケーションを図っていきます。

○回想のテーマ

 回想のテーマとしては人生の発達段階や歴史上の出来事の時系列的な側面を活用するもの、具体的には「子供時代」「ふるさと」「小学校時代」「中学校時代」「趣味」「交友関係」「旅」「出会い」「結婚」「出産」「子育て」「仕事」「孫の誕生」「定年」「今」「これから」などのライフステージを示すボードを準備し、キーワードを参考に話してもらうという方法です。
また昔使用していた物や出版物、五感を刺激するものなどを用いて行うことも多い。回想法の効果については抑うつ感の改善、不安の軽減、人生満足度の向上、対人交流の促進などが報告されています。
リアリティ・オリエンテーション 【見当識障害を解消するための訓練で、現実認識を深める】
リアリティ・オリエンテーションについてご説明します
リアリティ・オリエンテーション(現実見当識訓練)は、1968年Folsomの提唱から始まりました。
リアリティ・オリエンテーションとは、今は、何月何日なのかとか、季節はいつなのかといった時間や今いる場所等が判らないなどの見当識障害(けんとうしきしょうがい)を解消するための訓練で、現実認識を深めることを目的とします。
個人情報に関する質問に始まり、今居る場所や日付などの質問を繰り返し、また日常生活で当たり前に行ってきた動作を通じ、対人関係・協調性を取り戻すことや、残存機能に働きかけることで認知症の進行を遅らせることを期待する療法です。

○リアリティ・オリエンテーションの種類

 リアリティ・オリエンテーションには2種類の方法があり、一つは24時間リアリティ・オリエンテーションで、もう一つはクラスルームリアリティ・オリエンテーションです。

1.クラスルームリアリティ・オリエンテーション
 クラスルームリアリティ・オリエンテーションでは、少人数の患者が会合しスタッフの進行のもと決められたプログラムにそって個人および現在の基本的情報(名前、場所、時間、日時、人物など)が提供され訓練されます。

2.24時間リアリティ・オリエンテーション
 24時間リアリティ・オリエンテーションでは、認知症高齢者とスタッフとの日常生活における基本的なコミュニケーションの中で、認知症高齢者に「自分は誰であるのか」「自分は現在どこにいるのか」「今はいったい何時か」といった事柄に対する現実認識の機会を提供します。
例えば、着替えや排泄の介助など、日々のケアの中で、スタッフが意図的に、認知症高齢者の注意や関心を、天気、曜日、時間に向けたり、室内に飾られた季節の花、朝食のみそ汁のにおい、旬の魚を焼く香り、登校中の子どもたちの声などを用いて、見当識を補う手がかりを与える療法です。

音楽療法 【音楽で問題行動を減少させたり、精神的にリラックスさせる】

問題行動が少なくなったり食事の摂取量が増えるなどの効果が報告されています。
音楽療法の目的としては、心身ともリラックスさせたり、不安やストレスを軽減させたり、不適応な行動を減少させたり、自発性を向上させたり、協調性を改善させたり、思い出を掘り起こしたりして、長期および短期記憶力を改善させたり、現実認識を改善させたり、人との交流を改善させたり、体力を強化させたり、運動能力を改善させたりすることなどがあります。

○受動的音楽療法と能動的音楽療法

 実際の音楽療法には、音楽を受け身的に聞くだけの受動的音楽療法と参加者みずからが、歌を歌ったり、楽器を演奏したりして、積極的に音楽を行う能動的音楽療法があります。
具体的には、受動的音楽療法は、懐かしい歌やクラッシクなどの音楽を、食事時間や日常の介護場面でバックグラウンドミュージックとして聴かせる療法です。
それに対して能動的音楽療法は、参加者が、童謡、唱歌、演歌、フォークソング、軍歌などを歌ったり、また歌にあわせて、鈴、タンバリン、ベルなどの楽器を演奏したり、音楽にあわせて体のストレッチをしたり、歌体操や踊りなどを参加者自身が行う療法です。

○対象者が参加しやすい音楽プログラムの提供を

認知症に対する音楽療法としては、対象者が参加しやすい音楽のプログラムを提供できるように心がけます。
特に以前歌うことが好きだった人や、楽器の演奏の経験がある人に対する音楽療法は非常に効果的である可能性があります。

○音楽療法の効果

 音楽療法によって、興奮などの問題行動が少なくなったり、食事中、精神的にリラックスをして食事の摂取量が増えるなどの効果が報告されています。
認知症に対する運動療法 【運動機能の改善、心肺機能の改善、精神活動を賦活する】
身体面への有効性とともに精神面への効用も注目されています
高齢者に対して様々な形で運動療法が施行されており、身体面への有効性とともに、精神面への効用が注目されています。
認知症高齢者の場合、安静にしていたり、刺激の乏しい家の中に閉じこもる生活になりやすく、ものを考えたり判断する精神機能が衰え、まずは活動意欲が低下し、進行すると認知症状の増悪をまねく可能性があります。
また運動をしないと、筋肉が萎縮し、歩く能力が低下したり、心臓や肺の機能が低下し、立ったり歩いたりする時に疲れやすかったり、息切れなどがでることがあります。介護の観点から起居移動動作能力や四肢の関節可動域が保たれていることにより、介護の負担は軽くてすみますし、介護される認知症高齢者にとっても身体的かつ心理的負担も少なくてすみます。
従って運動療法は、運動機能の改善・維持、心肺機能の改善・維持、精神活動の賦活(ふかつ:活力を与えること、活発化)する意味でも有用性が高いといえます。

○運動療法の適応

 運動療法の適応としては、認知症の初期もしくは早期における身体活動を促すことにより、興奮などの問題行動を軽減させるために導入される場合と、認知症が進行し、すでに寝たきり状態にある人の日常生活動作能力を向上させる場合が考えられます

○運動療法の種類

 認知症高齢者に対して行われる運動療法は、具体的には関節可動域訓練、筋力増強訓練、持久力増強訓練、基本動作訓練からなります。ただ認知症に対する運動療法では、障害された大脳皮質の部分や疾患の進行度合いにより、個々の能力障害の程度が異なるために、画一的な治療プログラムを設定するのは困難です。
(1)関節可動域訓練 徒手(としゅ:素手)にて関節を動かす運動を行います。
(2)筋力増強訓練 筋力を増強するためには、通常以上の負荷をかける抵抗運動が有効です。
(3)持久力増強訓練 全身持久力訓練としては、大きな筋群を用いたリズミカルな運動、すなわち歩行、ランニングなどが適しています。
(4)基本動作訓練 寝返り、起きあがり、ベッド上の移動、坐位、椅子からの立ち上がりなどの起居動作訓練と車いすやトイレへの移乗動作、歩行と散歩などの移動動作訓練からなります。

○寝たきり状態の人の運動療法

認知症が進行し、すでに寝たきり状態にある人に対しては、「座った生活」を目標にします。座ることにより、バランス機能、心肺機能も寝ている状態と比べて向上します。継続により体力がついてきます。
座位による効用は、褥瘡(じょくそう:床ずれ)の予防、座位で食事ができること、ポータブルトイレで排泄ができること、車椅子での移動が可能になることがあげられます。

○運動の継続が大切

 アルツハイマー病の認知症では、上肢や下肢を動かす筋力と運動制御などの基本的運動機能は維持されやすいので、運動課題を順追って指導することにより、認知障害があってもいろいろな運動課題を実行することができます。
認知症高齢者に対しては行いやすい動作を選定し、転倒事故への配慮など安全性を確保し、緊張感の少ない静かな環境で行うことが必要です。
認知症高齢者が行うことが可能で転倒、骨折などの安全面を配慮すると、歩行、体操などの簡単な運動となってしまいがちですが、要は運動の継続が大切で会話、もしくは十分に声かけしながら運動を促したり、音楽、レクレーションなどを用いることで運動への興味を維持することも大切です。

認知症に対するその他の療法 【マッサージ療法、バリデーション、ペット療法、絵画療法など】

マッサージ療法やペット療法などいろいろあります
認知症高齢者に対して、愛護的にやさしく触れるものから、十分時間をかけてマッサージを行うものまであります。

○マッサージ療法

ゆっくりとしたマッサージを施行することにより、リラックスした状態にして、不安行動、歩きまわったり、介護者への抵抗を減少させる効果があります。
タクティールタッチ・タクティールマッサージなどもあります。

○バリデーション

 バリデーションとは、認知症高齢者とコミュニケーションをとるための療法で、
具体的には、共感と同意を持って話しを聞く、事実に基づいた言葉を使う、認知症の人の言葉を繰り返す、アイコンタクトをとる、やさしく触れる、思い出話をするなどのテクニックを用いることで、認知症高齢者の理解、自尊心の回復、他の人とのコミュニケーションの促進、ストレスや不安の軽減、介護者との信頼関係の構築を図る療法です。
バリデーションのテクニックは、スタッフや家族が簡単に習得できる点が特徴です。

○ペット療法

 犬やネコなどの動物に触れたり、一緒に遊んだりすることにより、情緒の安定や問題行動の減少を図る治療です。
施設によっては金魚、小鳥などの身近なペットばかりでなく、ポニー、フラミンゴなどを飼育しているところもあります。ペット療法に近い形で、人形を抱かせるドールセラピー(人形療法)もあります。ペット療法により興奮などの異常行動を減少させる効果があります。

○絵画療法

 レクレーション療法のプログラムにも導入される治療法で、水彩画、油彩、クレパスなどで絵を描く療法です。絵を書くことを通じて、自分自身の現在を表現し、他の人々とよく交流することができるようになります。
また認知症高齢者の精神機能を活発化させ、自発性、集中力や意欲面を向上させるのに効果があります。

○コラージュ療法

 コラージュ療法は、主として初期の認知症高齢者に有効な方法です。
認知症高齢者は、抽象的思考力が障害されるので、白い紙に自由に絵を描くことはだんだん困難となりますが、コラージュは、「貼り絵」のようなもので、既存の写真の切り抜きやキャッチコピーを、白い画用紙に思い思いに貼るという点で、障害のある人にとって、負担の少ない方法です。

○陶芸療法

 陶芸療法は、ロクロ形成、手捻り、釉薬(ゆうやく:うわぐすり)掛けなどを行い、その中で他人とのコミュニケーションを図りながら、情緒の安定、問題行動の減少をはかる療法です。

○園芸療法

 花や野菜を育てて、それを栽培することで、精神の安定を得る治療法です。
土や草花などに触れることで、精神が安定し、花や野菜を育てる過程で、本人に責任感や満足感が得られ、植物が成長する喜びを分かち合うことで、周囲の人とのコミュニケーションや会話が促されます。

○化粧テラピー

 顔を蒸しタオルで蒸した後に、ゆっくり時間をかけてマッサージをし、ほお紅と口紅を使うなどの化粧をすることで、自信や安らぎなどを得る治療法です。
効果としては、きれいになることで、意欲がわき、生活に張りが出てきます。化粧をしながら、他人とのコミュニケーションが持てるなどの効果がみられます。



認知症ケアポート『Rapport』の代表である認知症ケア上級専門士:松本恭子のOfficialWebです。認知症のこと、家族ケアのこと、定例勉強会のこと、松本個人の呟きなどお届けします。




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