認知症ケアにおいてよく聞かれる質問とその対応など。

Q1.家に帰りたいといって歩き回る

A: 「ここがあなたの家です」などと話しても納得しません。頭ごなしに否定すると感情的になり徘徊が激しくなります。むしろ「家に帰りたい」気持ちを受けとめて「今日はもう遅いから明日いっしょに帰りましょう」などと話し、気持ちを別のことに向けたり、「一緒に帰ろう」と家の周りを散歩すると気がすむこともあります。周りが「傍にいる」「一緒に何かをする」という関わり方で本人が安心できるように穏やかに接することが大切です。言葉でいろいろ説明するより馴染みの人が傍にいることの方が落ち着きます。

Q2.夜になってもなかなか眠らないで、家の中をうろうろしたり、夜中に何度も起こしにくる

A:夜中に何度も起こされたりすると「こんな時間にうろうろしないで」と言いたくなりますが、本人は「昼寝をしたから眠れない」「目が覚めたから起きただけ」「お腹がすいた」など理由があります。認知症の高齢者は生活に合わせて睡眠をコントロールできません。長い時間昼寝をしたり・日中の運動不足で眠りが浅くなることがあります。そんな時、一緒に散歩や家事したり、デイサービスの利用などで昼間の過ごし方を工夫する必要があります。
ぐっすり眠れるように、お湯で足を温めることも効果があります。落ち着かないときは家族がしばらく一緒に横になると安心して眠る場合もあります。また、食事をしても寝る頃に空腹感を感じて眠れないことがあるので、カステラや温めたミルクなど消化の良いものを勧めると落ち着くこともあります。

Q3.お風呂に入るのを嫌がり、無理に入れようとすると大声を出して拒否する

A:「お風呂に入らないと汚いから」といって、無理に服を脱がせてお風呂に入れがちですが、本人は「服を脱ぎたくない」「服を盗られてしまう」「恥ずかしい」「裸になりたくない」など様々な思いが頭を巡っています。
入浴という行動が<服を脱ぐ、湯につかる、からだを洗う、からだをふく、服を着る>という集中力が必要で、その一連の行為でくたびれてしまい風呂嫌いになると考えられます。
自分が汚れていることに無頓着になっていることも考えられます。裸になるのを嫌がるなら、下着のまま入っても良いでしょう。シャワーやお湯をかけると、下着を脱ぐ気になることも多いので無理強いはしないことです。元来日本人は風呂好きの人が多いので、嫌がっていた人も一旦お湯に浸かると気持ちが良いのでなかなか出てきません。認知症の人のお風呂は時間も手間もかかるので、介護者はゆとりをもって関わると案外スムーズに入浴できると思います。

認知症の理解

認知症はどんな病気?

ある日、ご家族の誰かに認知症の兆しが見えたら どうしますか…?
今まで築き上げてきた家庭や仕事、家族の営みの中に降って湧いた事態を 受けとめられるでしょうか。

次々に現れてくる認知症のBPSD(行動・心理症状)は この先どうなっていくのか…?
この先何時まで この生活が続くのか…これから先のことがまったく想像できない…?
こんな事を考えていると、目の前が真っ暗になってしまいます。
誰しも年をとるといろいろな機能が衰えてきます。目が見えにくい・耳が遠くなった・もの忘れするようになった……
認知症の症状が出始めたお年寄りの周辺では、「年相応の事」「個人差はあっても誰しも年をとると、もの忘れがあるもの」と、受け止めてしまい本気で考えようとしません。でもこの時当のご本人は、なんだか自分がだんだん自分でなくなるような漠然とした喪失感を感じているのです。年相応の変化でもあるかも知れませんが、それ以上に変化が加速しているのかも知れません。年相応とは身体や運動機能が衰えても、記憶力や判断力は衰えていない。そして、自分で考え行動できる。でも、ちょっと忘れっぽいという曖昧な形です。出来事の全てを忘れてしまうというのは個人差ではありません。
認知症のもの忘れと年相応の人のもの忘れの違いははっきりしています。前者は事柄の全てを忘れてしまいます。例えば家族とお花見に行ったとします。前者の場合は家に帰ってきて「今日のお花見楽しかったねぇ」と家族が声をかけたとき「お花見?そんなところ行ってないよ」ということになります。後者はお花見に行ったのを覚えていても「お花見弁当の中身の内の1~2品が何であったか思い出せない」と言う具合です。そんなわけですから、家族から「ダメじゃん忘れちゃって。せっかく連れて行ってあげたのに」などと言われて忘れたことを突きつけられますと、お年寄りの中の漠然とした不安が頭を持ち上げてきます。
認知症の始まりは記憶です。このため言ったことを忘れてしまったので、同じ事を何度も繰り返して言いに来るのでしょう。「花見弁当?そんなもの喰ってない」「ご飯はまだか?」になるのです。

認知症は病気です。

認知症は脳の病気です。生まれたときから脳細胞は働き続けています。記憶・作業能力・判断力・運動能力等々脳は休むことなく活動しています。その脳の働きはヒトが30歳位になると少しずつ衰えてきます。ですから、自覚できることがあるのです。それは、ものを覚える、学習するということが10代20代と比べて明らかに衰えてきたなぁーと、感じるのです。10代20代では自分は天才じゃないかしら?と思うくらい、知識が頭に入ってきました。それこそ水が染み込むように覚えることが出来たのです。30代くらいになって1度や2度繰り返すくらいでは事柄が覚えられないようになります。ここから年相応の脳の働きがイヤでも感じられるようになるのです。
認知症のお年寄りのMRI-CTなどを見ますと、健康な方のそれよりも黒い萎縮(しぼむ・ちぢむ)した画像が見られます。縮んだのは脳で縮んで働かなくなった脳は再生しませんから、縮んだ脳の中にある働き(機能)は発揮できません。記憶や判断力、運動・作業能力、などが脳の萎縮のためにできなくなってくるのです。このように、脳の萎縮または血管性認知症のように脳の内部血管の病変で起こってくるものもあります。これも、脳の障害された部分が働けなくなるという点で同じ事になります。
認知症は脳の病気です。脳のどこがどのように侵されているのかによって症状が少し違ってきます。ですから、年相応のもの忘れと同じように「じいちゃんしっかりしな!」と励ますのはお年寄りの自尊心と、何となく自分がおかしいと感じているお年寄りの不安を煽ることになります。不安や不穏になってしまい効果的ではありません。
まず、認知症は病気なので「このごろおかしいな、同じ事何度も繰り返すなぁ」と感じたら、家族で協力してよく観察しましょう。そして、やはり第六感が当たったと感じたら、専門医に受診しましょう。この病気になったら近所に恥ずかしいから黙っておく…ということをしないで、周りの皆で支えることが大切です。

認知症の人が抱えている心理的な問題

認知症の方の心 ~認知症になった時の気持ちは?~

認知症の方の世界を理解する

 認知症になると何も分からなくなり、徘徊や妄想、興奮など不可解な行動を起こすと考えている人たちがいます。たしかに認知症の人には、直前のことを忘れたり、今いる場所が分からなくなる、あるいは親しい人のことが分からなくなるなどの症状が現れてきます。しかしこれは認知症という「病気」が原因で起こっていることなのです。私たちでも今いる場所が分からなければ、帰ろうとします。もしこれを周囲の人が止めたり、帰れないように部屋に鍵をかけたりしたら、私たちでも大声をあげたり興奮したりするのではないでしょうか。「もし自分がそういう状況だったら・・・」ということを考えると認知症の人の行動は不可解でも何でもないのです。

もの忘れのつらさ

 もの忘れは誰にでも起こるものです。私たちでも「あれ?今ここに何をしにきたんだっけ?」と思う体験をしたことがあるはずです。しかし何をしに来たのかは、たいてい後で思い出すことが多いものです。もし思い出すことができず、しかもそのような状況が頻繁に起こったらどうでしょう。認知症の方のもの忘れは、このような状況が日常の中で頻繁に起こっているのです。私たちでももの忘れをしたときには不愉快な気分になったり、不安になるのと同様に、認知症の人たちもこのもの忘れが原因で不愉快で不安な日々を送っているのです。もの忘れを中心とする認知症という病気は、決して楽な病気ではなく、何より本人自身が日々つらい思いをしているのです。

できなくなってきたことの悔しさ

 認知症になると、仕事や家事など普段何気なく行ってきたことに失敗が見られるようになります。私たちでも失敗すると嫌な気分になりますし、今度はうまくやろうと思うでしょう。しかし認知症の方の場合、このような失敗がだんだんと大きなものになっていきます。認知症の方は、病気が原因でこのような失敗が起こっているということは理解できなくても、自分がこれまでうまくやってきたことができなくなったことには気づいています。さらに仕事上の失敗や家事の不手際が目立つようになり、周りの人たちからも指摘されるようになるために、悔しい思いをしたり、少しずつ自信を失っていったりするのです。これは何より認知症の方本人にとって非常に悔しい体験なのだということを理解することが必要でしょう。

2006年4月、認知症の人の「本人会議」が開かれ、当事者自身が自分の体験や苦しさを語る機会がありました。それまでは、『認知症の人といえば、物事がわからなくなって気楽だろう』などという誤解があったのですが、当事者が自身で語ることによって、認知症の人には漠然とした崩壊感があるということがわかってきました。
一般的に言って認知症の人には病感(自分が病気だという感覚)が無いと思われてきました。しかし、これは認知症の人自身が、自分がものを忘れてしまっていることに気づいていない(中核症状の記憶障害)ためといわれています。認知症の人は生活をしていく中で、今までの自分とは何となく違うという漠然とした感覚や、色々な場面で起こしている失敗や周りの人からの注意・叱責・指摘などから、病感に似た【何だか自分はこのごろ変だ】という感覚を感じている人もあるのです。もの忘れに気づかないから、そのことで困っていると意思表出することもできなかったのです。そして最近、認知症の当事者は、認知症を抱えた不安や苦しみを記録に書き留めたり、絵に描いたりして表すようになり、認知症の人が自分の体験などを周りの人に訴えて解ってもらおうとする機会が出てきたのです。
ただ、認知症の人が自分の言葉で今の苦悩を伝えることができるのは、病気の初期の段階だろうといわれています。認知症が進行してくると、その苦しみを周囲に伝えようとすることもできなくなってしまうからです。だからこそ、周りにいる私達が、認知症の人が抱えている心理的な苦しみや不安な思いを、認知症の人の行動や言葉の切れ端や表情から汲み取る努力をしなければならないのです。
ではどんな苦悩を感じているのでしょう、疾患の特徴から考えてみることにしましょう

「心理的な問題」①不快

一般的に健康な人でも、もの忘れしたとき思い出す方法として、初めに考えていた場所に戻ったりして、忘 れてしまったことが何であったか、一生懸命思い出そうとします。健康な人のもの忘れは「ど忘れ」であり、どうしても思い出せない事柄や、人の名前などがあるとき、思い出そうとしてもなかなか出てこないでイライラします。喉元に引っ掛かったような感じがとても不快で、健康な人でもそれがストレスになります。このも の忘れが頻繁に起こったときストレスは慢性的に続き、いつもいつも不安や不快な感情がつきまとう事になる のでしょう。認知症の人の心理的なストレスはこれに似ていると考えられています。

「心理的な問題」②不安

健康な人でも道に迷った場合、自分がどこにいるのか見当がつかなくなると不安になります。周囲の人が知 らない人ばかりであれば、不安はさらに大きくなるでしょう。認知症の人もそれはおなじで、住み慣れた街で 道に迷ったり、周囲の人が見知らぬ人に感じたら不安になることは想像できます。夕暮れで辺りが薄暗くなり自分がどこに帰ろうとしているのかが解らなくなった時も、不安は大きいと考えられます。認知症の人の記憶 は断片的に欠落していますから、そのため自分の体験が断片的になっていて、ブツブツと千切れた記憶の断片 どうしが繋がっていない状態だといえます。断片の寄せ集めがつながらずに、バラバラに散らばっていて繋が らないので、いつも漠然とした不安を抱えているのです。

「心理的な問題」③混乱

認知症の人は判断の障害があるので、自分の周りで起きている事柄(出来事)をしっかりと理解して行動す ることができません。この判断の障害によって認知症の人は混乱してしまうのです。健康な人でも、自分のペースではない、誰かのペースで急かされたりすると、普段は楽に出来ていたことも出来なくなってしまうこと はあります。健康な人でもそうなのですから、認知症の人では尚のこと、一度に色々なことを指示されたり言 われたり急がされたりすると混乱してしまいます。又、認知症の人は記憶の中でも直前の記憶(短期記憶)の 障害と断片的な記憶の欠落が起こるため、過去と現在が前後ゴチャゴチャになって混乱しています。 

家族支援

認知症の訪問看護に携わって3年目になります。先日、認知症の方を介護しているご家族が集まって集いが行われました。その集いに参加させていただいて、認知症のご家族を介護している人の現状を具に感じることができました。大学教授や様々な専門職が研究したり調べたり関わってみて解ったことなどを著わした様々な文献などから学ぶこともたくさんありますが…その方たちと一緒に話し・耳を傾けしているうちに、辛さや寂しさ・きつさや諦めなどを肌で感じとることができました。

本当にきれいごとではない内容が、ポツリポツリと語られていました。本当にきれいごとではないのです。そして、優しい気持ちになれなくなったとき・大声を出してしまったとき・思わず手を挙げてしまったとき・言い知れない情けなさと悲しみで自分を責めてしまうのです。自宅で家族を介護する人は、自分の生活の全てに介護が食い込んでいるのです。言い換えると介護が生活の一部なのです。

仕事を辞めて母親を介護している50代の男性は、介護疲れでボロボロになっているのに、まだ頑張ろうとして(頑張りきれていない)と、自分を責めていました。自分が看てあげなければ誰が看るのか??抱え込んで身動きができなくなってしまって・・・SOSが出せずに困憊してしまう例が後を絶ちません。

認知症ケア学会の神戸大会で出された研究論文でも『働き盛りの男性』の介護の姿が問題になりました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・≪働き盛りの負担大 介護開始初期と介護者の年齢に要注意≫

働き盛りの40歳代の家族介護者は負担が増大しています。仕事や子育てなど、自分の生活との両立を社会がまだ支えきれていないことに問題があります。また、家族介護を始めたばかりの人、介護者の年齢が高い人≪主に老老介護≫では、負担が大きくなる傾向があります。専門職としての、彼らをどのようにして支えてゆくのか、考えてゆく必要がありそうです。

家族が認知症になることは心身の負担、経済的負担を家族にもたらします。心の負担としては、要介護者との関係性の難しさが、身体の負担としては、要介護者の昼夜逆転が認められました。また、今回の調査からは40歳台の働き盛りで負担が大きいことがわかってきました。また、介護が長期化するにつれ、家族が介護者という役割に拘束され、負担を募らせることは極めて大きな問題といえます。認知症家族介護では、虚弱高齢者の介護と比べて、要介護者とコミュニケーションをとることが難しくなることが特徴であり、家族は心理的な負担を強いられるからこそ、介護から離れることができる『預かり型』のサービスが求められるのでしょう。しかし、家族も、そして認知症の人も安心して地域で暮らすためにも、地域密着型サービスを今後はさらに充実させることが必要となるでしょう。

上記は平成22年10月23・24日 神戸で開催された≪認知症ケア学会大会≫で発表された研究発表の一部抜粋です。資料:第11回日本認知症ケア学会大会 2010.10.23/24  於・神戸

研究事業報告:認知症ケア専門士の現状と展望 :発表者 北村世都 より 抜粋・参照

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

訪問看護でも家族の支援は欠かせません。ご家族のこころのゆとりが介護を楽にすると考えるからです。介護に疲れたご家族は、腹の底から今の思いを吐き出して『泣いて・怒って・怒鳴って・呟いて・嘆いて・泣いて』そういう時間をもってからでないと、介護に向き合えません。そのために、私たちは訪問先で認知症のお年寄りに関わりながら、ご家族が想いを開放できる時間をとっています。ありったけの思いを吐き出してもらって・・じっくりと聴き役になって・ご家族の想いと対峙することが、今一番大切な仕事です。そこから認知症の家族支援は始まると考えています。

認知症の人を介護するご家族のつどいに参加して、介護家族の現状を具に見るにつけ≪介護の毎日で介護者が精神的・身体的・経済的にも・・・潰れてしまう≫ことがとても気がかりでした。殊に男性の介護者は完璧に介護しようとしたり、一人で抱え込んでしまったり、誰にも相談しなかったり、相談する所が解らなかったり・・・などで孤立無援状態に陥りやすいのです。どうか文末に掲する長谷川先生のメッセージを受けとめてほしいと思います。そして住所地の地域包括支援センター・認知症相談窓口・市役所高齢者福祉介護関係窓口などに、先ずは相談してほしいと切に思います。

『介護する家族の方へのメッセージ』

1.一人で介護を抱え込まないこと:24時間.365日のケア。これは公的な介護サービスの在り方として掲げられますが、実に介護家族の現状でもあります。認知症の人を暮らしの中で支えることは、一人では無理です。公的サービスを利用しましょう。

2.認知症の人の不安感を和らげる工夫をする:認知症になると、もの忘れや周りの状況がよく解らなくて不安になります。介護する人も不安でしょうが、認知症の人の不安はもっと根源的です。『大丈夫よ、私がついているから』という穏やかな語りかけや、優しい態度が第一です。

3.理屈で説得するよりも、明るいそして穏やかな気持ちを大切に:認知症の人の誤りや間違った考えを理づめで説得することは、それを理解する神経系が病気のために働きが乏しくなっているのでうまくいきません。とても大変な事ですが、説得よりも穏やかな対応を優先してみましょう。

4.今を大切にしましょう:かつての過去の姿を思い出すとつらい気持ちになるでしょう。『しっかりしてよ』などと言いたくなると思います。その人らしさを失っていく姿を見るのは辛いでしょうが、今できること、残されている働きを尊重しましょう。

5.完全主義はやめてみましょう:介護する自分が燃え尽きないように100%のケアという完ぺきな介護をゆるめてみましょう。常に全力投球しないこと。充分な睡眠と休息をとることを心がけてください。そのためにも第1の提案、一人で抱え込まないことです。

元 認知症介護研究・研修・東京センター長  長谷川和夫先生 『介護する家族の方へのメッセージ』より

認知症の人の家族はどんな状況にいるのか

介護家族の介護負担について
大変だったこと(身体・こころ・お金・サービスが少ないこと)

◎介護者自身に関すること
≪精神的な負担・ストレスなど≫
 ・終わりがない/先が見えない/症状の悪化/明日への希望がない/24時間気が休まらない
 ・夫や家族の理解がない/大変さを周りが理解してくれない/同居していない被介護者の家族に理解してもらえない
 ・自分の感情のはけ口がない/愚痴を言うと周りから責められる/逃げ場がない/孤立
 ・イライラしたり言葉がきつくなる事への自己嫌悪/ストレスがたまり爆発してしまう
 ・デイサービス等を利用した時に後ろめたさを感じる/精神的な自由がない
  ≪身体的な負担≫
 ・一人にさせられない/目が離せない/自分の時間がない/外出できない
 ・夜眠れない/夜間の体位変換・夜間のトイレの世話をしなくてはならない
 ・不慣れな家事をしなくてはならない(男性)/家事全般(男性)/食事の手間
 ・子育てとの両立

≪経済的な負担≫
 ・仕事ができない/仕事との両立/介護のために退職せざるを得ない/介護貧乏になる/紙おむつやデイサービスなど
 ◎本人に関すること
  ≪身体的なケア≫
 ・排泄物の世話/トイレの介助/おむつの拒否
 ・もの忘れ/夜の徘徊/徘徊による転倒
 ・介護拒否/入浴拒否
 ・歩行困難に伴う車いすの使用・介助
 ・火の始末

≪精神的なケア≫
 ・話を聞き入れない/自分のことは聞かせるが家族のことは聞かない/認知症であるという自覚がない/自分が正しいという態度や介護を受けるのが当然という態度をとる
 ・本人の意思が解らない/会話が通じない/意思疎通ができない
 ・暴言をはく/暴言暴力/情緒不安定/興奮する/怒る/注意すると機嫌が悪くなる
 ・被害妄想/遠くに住む娘にありもしないことを言う/外と家とで違う態度をとる
 ◎サービスや医療等
 ・介護認定者の認知症への無理解/医療従事者の認知症への無理解
 ・急に必要になった時ショートステイなどのサービスが利用できるかどうかの不安
 ・入所できる施設がない/施設が少ない
 ・暴言や暴力でショートなどのサービスが制限される
 ・デイケアサービスセンター等の情報不足/相談先の情報が少ない
 ・専門医が近くに居ない
 ・介護制度や高齢者医療制度が頻繁に変わり、余計に時間・神経を使う
 ・認知症の症状で万引きをしたのに『犯罪』にされた介護負担に影響するBPSD

≪抽出されたBPSD項目≫
・目的もなく動き回る ・食べられないものを口に入れること ・夜間不眠あるいは昼夜逆転 ・火の始末や火元の管理ができないこと  ・いろいろなものを集めたり、持ってくる ・見えないものが見えたり聞こえること ・泣いたり笑ったりして情緒が不安定になること ・暴言や暴行 
認知症の人の家族介護では、認知症の人との『関係性』が負担となる
認知症は認知機能障害をもたらす脳の疾患であり、結果的に認知症の人の人柄はあたかも変わってしまうかのように周囲には受け取られます。
これまで長い間家族の歴史を持つ身内が認知症になることは、進行に伴って少し変化する(ように感じられる)認知症の人の人柄を受けとめてゆくことを迫られるのです。
認知症は認知機能障害をもたらすだけではなく、周囲の家族との関係性障害をもたらす点が、本人・家族の双方にとって大きな負担となっていることがうかがえます。

≪働き盛りの負担大 介護開始初期と介護者の年齢に要注意≫
働き盛りの40歳代の家族介護者は負担が増大しています。仕事や子育てなど、自分の生活との両立を社会がまだ支えきれていないことに問題があります。また、家族介護を始めたばかりの人、介護者の年齢が高い人≪主に老老介護≫では、負担が大きくなる傾向があります。専門職としての、彼らをどのようにして支えてゆくのか、考えてゆく必要がありそうです。

まとめと考察
 家族が認知症になることは心身の負担、経済的負担を家族にもたらします。心の負担としては、要介護者との関係性の難しさが、身体の負担としては、要介護者の昼夜逆転が認められました。また、今回の調査からは40歳台の働き盛りで負担が大きいことがわかってきました。また、介護が長期化するにつれ、家族が介護者という役割に拘束され、負担を募らせることは極めて大きな問題といえます。認知症家族介護では、虚弱高齢者の介護と比べて、要介護者とコミュニケーションをとることが難しくなることが特徴であり、家族は心理的な負担を強いられるからこそ、介護から離れることができる『預かり型』のサービスが求められるのでしょう。しかし、家族も、そして認知症の人も安心して地域で暮らすためにも、地域密着型サービスを今後はさらに充実させることが必要となるでしょう。
結論:≪デイサービスのみ デイサービスとショートステイ などの利用が中心で、認知症ケアの介護者の介護負担を軽減するには「預かり型ケア」が不可欠である≫

上記は平成22年10月23・24日 神戸で開催された≪認知症ケア学会大会≫で発表された研究発表の一部抜粋です。
資料:第11回日本認知症ケア学会大会 2010.10.23/24  於・神戸
  研究事業報告:認知症ケア専門士の現状と展望 :発表者 北村世都 より 抜粋・参照

家族が感じている認知症介護の負担感

認知症の人を介護している家族の負担感について、例を挙げると

1.この先、病状の経過が分からないことに不安  180(86.1%)
2.自分の自由になる時間が欲しい 169(80.9%)
3.自分の身の回りのことが出来ないで困る  168(80.4%)
4.便・尿失禁、放尿があることで困る   159(76.1%)
5.この先、世話を続けなければいけないことが負担 158(75.6%)
6.伝えたいことがうまく伝わらないことが困る 154(73.7%)
7.患者の身の回りの世話をすることに負担を感じる 150(71.8%)
8.患者の話す内容を理解できないことが困る 134(64.1%)
9.介護者の身体不調で、世話をすることが不安・負担 134(64.1%)
10.時間や場所、人の顔が分からないことが困る 133(63.6%)

出典  今井幸充氏:『家庭看護者の精神保健.老年精神医学雑誌,3(10):1119(1992)』

まだまだ続くのですが、経済的な不安・異常行動や病状の悪化で対処方法が分からない・世話を手伝ってくれる人がいない・介護拒否に困る・家族や親戚が病気や世話に無関心・病気や介護方法の相談場所がわからない等々が挙げられています。上記の10項目はその中でも主な(上位にある)負担感となる内容です。
負担感の内容を見てみますと、認知症の症状からくる様々な困惑や負担感が現れるのは想像できますが、これらの挙がる以前に介護者がまず感じるのは別の所にあるような気がします。それは、この先認知症の症状や介護の日々がどこまで続くのか?病状がどのようになっていくのか?自分の人生はどうなってしまうのか?そして孤立無援の地獄に堕ちるのではないか???

先の見えない介護に、周りの理解や援助・手助けがあるのだろうか?という不安と孤立感が募ってきます。認知症の介護を生活の中に抱えている人達の抱え込みや孤立に目を向けなければ、介護地獄が解決されないと感じています。このように介護する家族の抱えている問題に、まず手助けをしないと介護者は救われません。認知症のお年寄りと介護する人と両方の人生を大切にしなければならないのです。認知症のお年寄りの毎日の世話はもちろん大切ですが、介護に携わる人が毎日のお世話で潰れてしまうのを避けなければなりません。

私の母は認知症でした。60代半ばで認知症と診断されました。私の姉弟の中で姉は母の様子の変化を受けとめましたが、兄は「そんなはずはない」と否定しました。父が亡くなり母は独り暮らしになりましたが、否認したままでした。ある日、母が自転車で道路の真ん中を通って兄の家に行こうとしていました。後ろからたくさんのトラックや自動車がクラクションを鳴らしながら付き従っていました。また、ある時は、近所の家や公園に自宅から出たゴミを捨てに行きました。そんな行動に民生委員から連絡が入り、母を家に一人でおけなくなった現実を認めたのです。

まず、母親が認知症になったことを受けとめたくないという感情が働きます。それでも、周りからの情報や近くにいる人などから状況を知らされ、認めざるを得なくなるのです。母の認知症への対処はそれから15年ほど続きました。
その間に、
1.だれが介護するのか? 
2.この状態がいつまで続くのか? 
3.介護負担は誰がサポートするのか? 
介護をめぐって、姉弟親族の間で様々なやりとりがあり、姉弟・嫁・親族の複雑な感情の縺れが露わになりました。長男の嫁が看るべきだ・・姉弟が順番に看るべきだ・・病院関係に働く人が看るべきだ・云々と、普段は仲の良い姉弟親族が解離してしまうほどの重苦しいやりとりがありました。話し合いの果てに介護する人が決められていったのです。もちろん、皆自分が背負いたくなかったので、介護することになった人もやむなく・・・ということでした。

介護を引き受けた人は、介護そのものが生活に入ってきます。介護が生活の一部になるのです。それまでしていた活動も、仕事も、社会的な立場も・・・・優先順位が変わってしまいます。この苦痛は介護をした人にしか解らないのかも知れませんが、実はそれではいけないのだと思います。介護する人が自分の人生を180度転換して介護に没頭することになるのは避けなければなりません。これこそが、介護負担の第一の原因になるからだと言えるからです。

介護家族も人間です。周りの人のサポートがあってはじめて、介護が出来るのです。そして、その介護の輪の中から、認知症の人の人生の締めくくりを大切にするケアが生まれるのだと思います。

BPSD(行動・心理症状)への関わり方

認知症を知る

認知症になってもできること、認知症に対してできること

●身体が覚えている

認知症という病気の中核となる症状は、記憶や判断といった知的機能・認知機能の障害です。しかし、知的な機能のすべてが、一度に失われてしまうわけではありません。以前から覚えていた知識や、印象深かった出来事の記憶などはまだまだ残っています。特に、家事や趣味などご本人がそれまでの生活でずっと続けていたようなこと、楽しんでやってきたようなことは、身体が自然に動くほどその人にしみついているものです。もちろん、その人がもっている力を発揮するための環境づくりは必要かもしれませんが、そうしたことを行えることは、ご本人にとってもうれしく、自信につながるものです。

●豊かな”こころ”

「認知症になると何もわからなくなる」「ボケたが勝ち」・・・本当でしょうか?

確かに、認知症の症状は時を経れば進行していきます。しかし、感情はあまり障害されず、かなり末期の段階まで残っています。例えばここがどこだかわからなくなっていても、ほんの少し前の出来事を忘れてしまっていても、悲しい、さびしい、嫌だ、うれしい、楽しいといった感情は、いつも感じています。また、感情の記憶は心に残りやすいものです。いつもできていたことができなくなったつらさや不安、覚えのないことで叱られた嫌な気持ち、自分らしさを発揮できたうれしさを生き生きと感じる心、そしてそれまでの人生を生きてきた誇りはもち続けます。

●治療

薬物療法:認知症の中核症状に対してはアルツハイマー型の認知症の進行を抑えたり緩やかにする治療薬や、脳血管障害の治療薬などが用いられます。また、抑うつ、妄想、幻覚、せん妄といった認知症の行動・心理症状に対しては症状に合わせた薬物療法が行われ、適切な処方があれば改善も望めます。

非薬物療法(心理療法):薬物療法以外に、心理・社会的な観点からのアプローチもなされます。これらは、(1)認知症があることによる不安や混乱、抑うつなどの軽減や、(2)認知機能の活性化などを目的に、十分な訓練を受けた心理士や精神科医などによって行われます。

*認知症の症状がみられる病気の中には早期発見・早期対応により治療可能なものがあります。専門の医療機関への相談・受診を。

●ケア

認知症に症状の中でも、特に行動・心理症状は心理的な要因が作用して出現してきます。そのため、適切なケアが提供されることによって、認知症のある方の心理的ストレスが軽減し、行動・心理症状を軽減できる可能性があります。また、適切なケアや対応を提供するためには、認知症について正しい知識をまずもち、その人のありよう・その人らしさを理解し受け入れてそれを尊重する、といった基本的な態度をもつことが大切です。

参考・引用資料:認知症介護研究・研修仙台センター

認知症についての理解を深める

認知症をよく理解するための9大法則・1原則
神奈川県・川崎幸クリニック院長
社団法人認知症の人と家族の会副代表理事  杉山孝博

認知症の介護において最大の問題は、症状の理解の難しさにある。今言ったことも忘れてしまうひどいもの忘れ、家族の顔すら忘れてしまう失認、金銭・物に対するひどい執着、徘徊、失禁など多彩な症状を、介護者は理解できす、振り回されてしまう。認知症の症状を理解し上手な対応が可能になるように工夫したのが、「認知症をよく理解するための8大法則・1原則」です。

第1法則:記憶障害に関する法則

銘力低下:話したことも見たことも行ったことも直後には忘れてしまうほどのひどい物忘れ。

同じことを繰り返すのは毎回忘れてしまうため。全体記憶の障害:食べたことなど体験したこと全体を忘れてしまう。 記憶の逆行性喪失:現在から過去にさかのぼって忘れていくのが特徴。昔の世界に戻っている。

第2法則:症状の出現強度に関する法則 

より身近な者に対して認知症の症状がより強く出る

第3法則:自己有利の法則 

自分にとって不利なことは認めない

第4法則:まだら症状の法則 

正常な部分と認知症として理解すべき部分とが混在する。初期から末期まで通してみられる。常識的な人だったらしないような言動をお年寄りがしているため周囲が混乱しているときには「認知症問題」が発生しているのだから、その原因になった言動は「認知症の症状」であるととらえる。

第5法則 : 感情残像の法則 

言ったり、聞いたり、行ったことはすぐ忘れる(記銘力低下の特徴)が、感情は残像のように残る。理性の世界から感情の世界へ。

a. ほめる、感謝する
b.同情(相づちをうつ)
c.共感(「よかったね」を付け加える)
d.謝る、事実でなくても認める、嘘をつく(悪役を演じる俳優の気持ちで)

第6法則 : こだわりの法則 

ひとつのことにいつまでもこだわり続ける。説得や否定はこだわりを強めるのみ。本人が安心できるようにもってゆくことが大切

a.そのままにしておく
b. 第三者に登場してもらう
c. 場面転換をする
d.地域の協力理解を得る
e.一手だけ先手を打つ
f.お年寄りの過去を知る
g.長期間は続かないと割り切る

第7法則 : 認知症症状の了解可能性に関する法則 

老年期の知的機能低下の特性から全ての認知症の症状が理解・説明できる

第8法則 : 衰弱の進行に関する法則 

認知症の人の老化の速度は非常に速く、認知症になっていない人の約3倍のスピード。正常の高齢者の4年後の死亡率が28.4%であるのに、認知症高齢者の4年後の死亡率は83.2%(聖マリアンナ医大長谷川名誉教授の報告)。

第9法則 : 介護に関する原則 

認知症の人の形成している世界を理解し、大切にする。その世界と現実とのギャップを感じさせないようにする

(C)1998-2010 Alzheimer’s Association Japan All Rights Reserved.
社団法人認知症の人と家族の会<旧呆け老人をかかえる家族の会>



上手な介護12カ条(杉山孝博)

第1条 知は力なり。よく知ろう。
第2条 割り切り上手は介護上手。
第3条 演技を楽しもう。
第4条 過去にこだわらないで、現在を認めよう。
第5条 気負いは負け。
第6条 囲うよりは開けるが勝ち。
第7条 仲間を見つけて心軽く。
第8条 ほっと一息、気は軽く。
第9条 借りる手は多いほど楽。
第10条 ペースは合わせるもの。
第11条 相手の立場でもを考えよう。
第12条 自分の健康管理にも気をつけよう。

ぼけとつき合う本音10カ条(家族の会)

1.3歩離れてじっくり介護
2.「愛情が第1」というけれど
3.周りの言葉にまどわされず
4.家族の暮らしあってこその介護
5.女性中心でなく男性の力も
6.「その日暮らし」の精神で
7.できる手抜きは勇気を持って
8.励まし合い、助け合う仲間の輪
9.「私でなければ…」とかかえこまない
10.楽しく智恵比べ

ぼけの人のために家族ができる10カ条  

作成;社団法人呆け老人をかかえる家族の会

1.見逃すな、「あれ、おかしい?」は大事なサイン
2.早めに受診を、治る痴呆もある。
3.知は力。痴呆の正しい知識を身につけよう。
4.介護保険など、サービスを積極的に利用しよう。
5.サービスの質を見分ける目をもとう。
6.経験者は知識の宝庫。いつでも気軽に相談を。
7.今できることは知り、それは大切に。
8.恥じず、隠さず、ネットワークを広げよう。
9.自分も大切に、介護以外の時間ももとう。
10.往年のその人らしい日々を。

(詳しくは(社)家族の会編「新ぼけの人の生活と対応」婦人生活社発行をご覧ください)

介護者の願い10カ条(家族の会福島県支部)

1.痴呆は病気です。初期には介護者以外の家族には理解しにくい状態があります。お年寄りの身辺で常に介護している人の話を、家族も兄弟姉妹も親戚もよく聞いてください。
2.お年寄りの話をうのみにせず、もの忘れ、お金を盗む、妄想、徘徊などの状態を時間をかけてよく知ってください。
3.介護者も混乱し模索しているので、介護者を孤立させないでください。
4.介護者の100%の介護を求めないでください。介護者は介護に工夫をしながらも、介護に疲れています。
5.介護者に「ご苦労さま」「ありがとう」「お願いします」など、いたわりの言葉をかけてください。
6.介護に慣れてくると、介護者とお年寄りの生活のリズムをできます。ないしょでおやつを食べさせたり、介護者の悪口を言うことなどしないでください。
7.介護を一人の人に押しつけないでください。介護者は日々の介護に疲れています。兄弟姉妹や親戚の人は、おかずの一品を持ってくる、泊まったらシーツを洗うなど手伝ってください。
8.介護を女性だけに押しつけないで、男性も介護へぜひ参加してください。仕事に疲れていても、せめて介護者のグチを聞いてください。
9.介護者を周囲の人々が支えてください。ホームヘルパー、デイサービス、ショートステイなどを在宅福祉サービスを利用するのを暖かく見守ってください。
10.医療や福祉にたずさわる人は、痴呆のお年寄りと介護者をよく理解し、適切に対応してください。

高齢者のケア

高齢者のケアに携わるとき、頭においておきたい疾患・症状・状態・陥りやすい問題などについて挙げてみます。高齢者に関わるときには、身体的・心理的・社会的特性をふまえて今起きている状況が何であるかを予測できることが重要になるからです。

老人の身体の特徴

            「老人のための家庭医学百科」「サクセスフルエイジング」より一部抜粋

 老化とはいったいどういうことなのでしょうか。外見で判断する人が多いと思います。また、体力の衰えや記憶力の低下などで感じる人もいるでしょう。このように老化は個人差が大きく、医学的に老化を定義づけるということは、なかなかむずかしいことです。老人を診察しても、内臓の働きは若い人とそう大きな違いはありません。したがって、このようなことだけから老化をみつけるということはできません。また、老化には時代差、男女差もあります。
 しかし、そうはいっても若い人と肉体的にまったく同じかというと、けっしてそうではありません。私たちの体は多くの細胞から成り立っていますが、この細胞そのものに老化としての現象が現れるはずです。ただ、それを具体的にとらえて、「これが老化現象である」ということを臨床面からだけでいいきることはむずかしいので、それには病理学的、生理学的、心理学的な多方面からの検討が必要です。
 私たちは生きているかぎり、歳をとればいろいろな変化、すなわち老化現象が起きるのは避けられないことです。老化を、普通は精神的な老化と身体的な老化の2つの面から考えていきます。
 あるアメリカの学者が精神的な老化の指標として15の徴候をあげていますので、列挙してみましょう。
  
(1)最近のことを忘れてしまう。昔のことは比較的よく記憶している。
(2)急ぎの用をしなければならないとイライラする。
(3)すべてのことに対して自己中心的になる。
(4)過去のことを繰り返し話す。
(5)よくグチをこぼす。
(6)目のまえで起こっていることに興味をもたない。
(7)他人にわずらわされず一人でいたい。
(8)新しいことを身につけにくい。
(9)騒がしいことに神経質になる。
(10)知らない人と付き合うことを好まなくなる。
(11)世のなかの変化についていけなくなり、疑い深くなる。
(12)自分自身の感情にとらわれやすい。
(13)過去の自分の苦労話をしたがる。
(14)新しい計画を立てることができない。
(15)つまらないものを収集して喜ぶ。
  
以上、15の徴候ですが、わが身にあてはまることがボツボツでていることに気がつくでしょう。
 
では、体に現れる老化現象にはどういうものがあるのでしょうか。それは、白髪が多くなった、老眼になり新聞が読みにくくなった、耳が遠くなった、皮膚のしわやしみが多くなり、弾力がなくなった、歯が抜けてそしゃくする力が落ちた、などです。また、骨や関節が衰え、体の動きがぎくしゃくしてきた、反射神経が鈍くなった、なども現れてきます。いずれも歳をとるに従って現れてくる現象(加齢現象といいます)で、これらをいちおう老化とよんでいます。

歳をとると、体の働きがどのように変化するのでしょう。まず、外からの刺激に対する反応が遅くなります。そして、外からの刺激により起こった体のなかの変化がもとの状態に戻るまでに時間がかかります。また、ウイルスや細菌に対する抵抗力が衰えたり、傷の治り方が遅くなったりします。爪の伸び方も遅くなったりします。そのほか、血圧の変化、視力の低下、暗がりになれるまでに時間かかるなど、いろいろな変化が生じてきます。
 
老人にみられる病気の特徴は、1人で多くの病気や過去に種々の病気をもつために症状が覆い隠され病気が重篤でも明瞭な症状に乏しく、しかも非定型的で診断、評価、鑑別が困難な例が多いことです。すなわち、
(1)多臓器疾患が多い。たとえば、心臓が悪いが同時に肝臓、腎臓も悪い。
(2)個人差が大きい。
(3)症候が非定型的で身体所見に乏しい。たとえば、肺炎になっても発熱しない。なんとなく元気がなく、意識がぼんやりしている程度、ということがあります。
(4)臓器の機能不全が潜在的に存在し、水・電解質異常、低栄養等を起こしやすい。潜在的に心臓、腎臓、その他の臓器の機能の低下、予備力の低下があって、容易に脱水症状を起こしたりする。
(5)慢性疾患が多い。
(6)薬物への反応が若年者と異なる。老人では肝臓での代謝が遅く、腎臓の機能も低下しているため薬物の排泄が減少したり、蓄積した薬物で中毒を起こしやすくなります。つまり、薬物に対する過剰反応や副作用が現れやすくなります。
(7)生体防御力が低下し、難治性である。
(8)加齢、老化による生理的変化なのか、病的変化なのかの判断が困難である。
(9)精神・神経症状や記憶力・記銘力低下のため、本人からの病歴聴取が困難である。
 
などがあげれらます。

いずれにしても、老化を避けることはできませんが、身体面、精神面で若さを保つことはできるはずです。では、歳をとっても若さを保つための心がけをいくつかあげてみましょう。

◎まず第一に、かかりつけの医師を決めておきましょう。

気軽に健康相談ができる1人の定まった医師を近くにもつことです。もし、重い病気にかかったときは、その医師の紹介を得て専門病院にかかるというようにするとよいでしょう。

◎第二に、いつも若々しくふるまうようにしましょう。

姿勢をできるかぎりよくし、服装も多少若づくりにすれば、自然に若返り、体のほうも元気になるものです。

◎第三に、適度に体を動かし、頭を使うようにしましょう。

足から歳をとりますから、平地であればどんどん歩くようにしましょう。運動量と運動時間は、年齢や体力に応じて決めなくてはなりません。老人では、もちろんスピード、耐久性を必要とする過激な運動は避けねばなりません。軽いリズム体操、速歩と普通の歩行の組み合せ等が適当です。多少疲労感を感じる程度まで行う必要があります。最もいけないのは家に閉じこもることです。運動により、このことはできるという体力に対する自信や健康感は老人の意欲向上のうえで、なにものにもまさるものです。
 
また、毎日興味のありそうな本を読んだり、新聞や雑誌に目をとおして世のなかの動きに感心をもつことです。
最後に、寒さから体を守ることです。冬のトイレ、風呂場などは寒くないような工夫をして、老人への危険性をできるかぎり取り除くように注意したいものです。
歳を忘れて暮らすことは幸福にちがいありませんが、やはり限度があります。こころを若く保ち、頭と体を適度に使い、いつまでも健康な生活を送るようにしたいものです。



認知症ケアポート『Rapport』の代表である認知症ケア上級専門士:松本恭子のOfficialWebです。認知症のこと、家族ケアのこと、定例勉強会のこと、松本個人の呟きなどお届けします。




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